とってもシュールなペーター・ニクル&ビネッテ・シュレーダーの絵本「わにくん」

とってもシュールなペーター・ニクル&ビネッテ・シュレーダーの絵本「わにくん」
「わにくん」
ペーター・ニクル/作 ビネッテ・シュレーダー/絵 矢川澄子/訳 偕成社【絶版】


ナイル川に住むわにくんが、パリへと旅する絵本です。その旅の目的とは・・・

ビネッテ・シュレーダーは、最初の絵本「お友だちのほしかったルピナスさん」で
ブラチスラバ世界絵本原画展「金のりんご賞」受賞。
1997年にはこれまでの業績に対してドイツ児童文学賞特別賞を受賞するなど
ドイツを代表する絵本作家さんのひとりです。

また本作は、1975年に「スイスの最も美しい本賞」受賞。
1977年にライプチヒ図書展「世界で最も美しい本賞」受賞しています。

美しいものには毒があるのでしょうか。この作品に怖さや狂気さえ感じます。

シュレーダーの絵はシュルレアリスム(超現実主義)的とも言われています。
「意識と無意識の混ざった状態」つまり「夢と現実の混ざった状態」こそが
本当の現実という考えがシュルレアリスムだそうです。

「わにくん」はこんなストーリーです。

ナイル川のほとりに住むわにくんは、ある日散歩にやってきたご婦人がたが
話している「わにの店」というものに興味をもち、「わにの店」へと旅することを決心した。
ヨットや汽車をのりついで、やってきたのはシヤンゼリゼ。
噂の「わにの店」に行き着いた。
はるばるナイルからやってきたわにくんにはあまりにもむごいこと!
そこは、わにの皮の品物を売る店だったのだ!
怒り狂ったわにくんは、店の売り子のソフィーさんをひとのみにして
ソフィーさんの持ち物だったしゃれた品々を袋にごっそりつめこみ、ナイルの岸へともどっていった。
ナイルのわにたちは、それからたいそうおしゃれになった。

話を書いているのは、シュレーダーの夫であるペーター・ニクルです。
話もなかなかシュールです。

絵の中で特に印象深いのは・・・
わにくんがシャンゼリゼのカフェでコーヒーを飲むときのまわりの人間たちの描写
(なぜか恐ろしくぐったりしている)
わにくんが大通りを歩いているときの奇妙な描写
風景のなかところどころに小さく描かれる人間たちの様子
いろいろ想像をかきたてます。
こだわって描かれている影には不気味さが漂います。
まるでシュルレアリスムの絵画を見ているようです。

ペーター・ニクルがシュレーダーの感性を見事におしあげていて、夫婦ならではの
意気のあった合作です。