辰年におすすめ! 宮沢賢治「竜のはなし」

辰年におすすめ! 宮沢賢治「竜のはなし」
「竜のはなし」
宮沢賢治/作 戸田幸四郎/画 戸田デザイン研究室


「竜のはなし」は、宮沢賢治の短文童話「手紙」シリーズの一作で
題名「手紙一」を改題したものです。
「手紙」シリーズは、一から四まで四作あり、実際に賢治が印刷し
配ったそうです。

「竜のはなし」は、お釈迦さまの前世が竜であったという内容で
釈迦の前世の物語である「ジャータカ物語」として創作されています。

釈迦が現世において悟りを開くことができたのは
輪廻転生により人並み以上に過去世の善行・功徳を繰り返したからであろう
とされ、すぐれた自己犠牲と忍耐が語られるのが、「ジャータカ物語」です。
また釈尊が前世で、動物などすべての生きものを教え導いたエピソードでも
あると言われています。

「竜のはなし」はこのようなような内容です。

むかし、あるところに一匹の竜がすんでいました。
力が強く、形も恐ろしく、毒をもっていて、あらゆるいきものが
見ただけで気を失ってたおれたり、毒気にあたって死んでしまうほどでした。

ある時、竜はよいこころを起こして、もう悪いことはしないとちかいました。
竜が林の中で寝ていると、猟師たちがやってきました。
猟師たちは、竜のるり色や金色に輝く皮をみて
王様にさしあげようと、竜の皮をはぎとりました。
竜はくやしいという心さえも起こさず、じっとこらえていました。

赤い肉ばかりになった竜を今度は、たくさんの小さな虫たちが
食おうと出てきました。
竜は「今このからだをたくさんの虫たちにやるのは、まことの道のためだ。
やがてはまことの道をも虫たちに教えることができる。」と考え
虫たちにからだを食わせました。

とうとう竜は死んでしまいましたが、後にお釈迦様になって
みんなに幸せをあたえました。
竜の考えたように虫たちもみな教えを受けて、まことの道に入りました。

「まことの道」は、「仏の道、 本来あるべき道、本来守るべき道」で
法華経を強く信仰する宮沢賢治の信仰心熱い作品ですが
欲のために竜の皮をはいで持ち去った人間と
生きるためだけに竜の肉を食べた虫たちとの対比や
この世で一番恐ろしく強いであろう竜が、この世で一番かよわいであろう
小さな虫の命のために、自分の命を与えた場面は
自然をこよなく愛した宮沢賢治の小さな生き物へのやさしい心持ちも
感じる作品です。